ブラック企業とはどのような会社なのでしょうか。
一般的な特徴として、労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、このような状況下で労働者に対し過度の選別を行うなどの企業を指します。
ブラック企業は、個人の被害にとどまらず、日本社会と経済全体にも悪影響を及ぼしています。ブラック企業で働くことで、心身の不調や自己肯定感の低下、キャリア形成や転職活動の困難さなどの問題を抱える労働者が増えています。
また、ブラック企業は、低賃金労働者の増加や格差拡大、長時間労働による生産性低下やイノベーション阻害、家庭内時間の減少や少子化の加速など、社会全体の問題をも引き起こしています。
この記事では、ブラック企業の実態と社会的影響について、具体的な事例やデータを用いてわかりやすく解説します。また、ブラック企業から脱出する方法や、ブラック企業とは対照的なホワイト企業の取り組みについても紹介します。ブラック企業は必要悪ではなく、社会全体で改善すべき問題であることを強調します。
目次
ブラック企業が個人に及ぼす影響
ブラック企業で働くことは、個人の心身の健康や幸福感に大きな悪影響を与えます。ブラック企業で働く労働者は、以下のような問題に直面する可能性が高くなります。
過労死や過労自殺
ブラック企業では、法定時間を超える長時間労働が常態化しています。長時間労働は、心臓疾患や脳卒中などの生活習慣病や、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクを高めます。
これらの疾患は、労働者の死亡や自殺につながる可能性があります。実際に、厚生労働省が発表した「令和4年版過労死等防止対策白書(本文)」によると、令和3年の自殺者数のうち「1,935人」が勤務問題を原因とする自殺者数です。
また、このデータを年齢別に見ると下記の図の通り、40歳〜49歳が一番多くなっており「管理職クラス」の役職についている層の自殺者が多いと考えられます。
また、過労死等認定件数は減少傾向にあるものの、実際には多くの過労死等が未申請や未認定であるという指摘もあります。
キャリア形成や転職活動が困難になる
ブラック企業では、労働者に対して適切な教育や研修を行わないことが多く、スキルや経験を積む機会が少ないです。また、長時間労働やノルマに追われているため、自己啓発や資格取得などの時間や余裕がありません。
これらのことは、労働者のキャリア形成を阻害し、将来的な収入やキャリアアップの可能性を低下させます。
さらに、ブラック企業から脱出しようとしても、転職活動に必要な時間やエネルギーが不足しているため、なかなか転職先が見つからないというジレンマに陥ります。また、ブラック企業で働いていたことが転職先にマイナス評価されることもあります。
自己肯定感の低下や孤立感
ブラック企業では、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの不適切な人間関係が発生することが多く、労働者は自分の価値や能力を否定されたり、屈辱的な扱いを受けたりします。
これらのことは、労働者の自己肯定感を低下させ、自信や希望を失わせます。また、長時間労働や休日出勤などで家族や友人との交流が減少し、孤立感や寂しさを感じることもあります。
ブラック企業が社会に及ぼす影響
ブラック企業は、個人だけでなく、社会全体にも様々な悪影響を及ぼしています。ブラック企業が社会に与える影響として、以下のようなものが挙げられます。
低賃金労働者の増加や格差拡大
ブラック企業では、労働者に対して適正な賃金を支払わないことが多く、賃金不払いやサービス残業などの違法行為が横行しています。これらのことは、労働者の所得水準を低下させ、生活費や消費支出に充てる余裕がなくなります。
また、ブラック企業で働くことでキャリア形成や転職活動が困難になるため、低賃金労働から抜け出すことができず、貧困の罠に陥ることもあります。これらのことは、低賃金労働者の増加や格差拡大につながり、社会的不安や不平等感を高めます。
長時間労働による生産性低下やイノベーション阻害
ブラック企業では、長時間労働が常態化しており、労働者の健康やモチベーションを損なっています。長時間労働は、労働者のパフォーマンスやクオリティを低下させ、ミスや事故の発生率を高めます。
また、長時間労働は、労働者の創造性や発想力を奪い、新しいアイデアやサービスを生み出すことを妨げます。これらのことは、企業や経済全体の生産性低下やイノベーション阻害につながり、国際競争力の低下にも影響します。
下記図は企業規模別の労働生産性を表したものですが、小規模事業者ほど長時間労働になる傾向があり、長時間労働が労働生産性の低下につながっていることを示唆しています。
家庭内時間の減少や少子化の加速
ブラック企業では、休日出勤や残業などで家族と過ごす時間が減少し、家庭内でのコミュニケーションや育児・介護などの負担分担が困難になります。これらのことは、家庭内でのストレスや不満を高め、夫婦関係や親子関係に悪影響を与えます。
また、ブラック企業で働くことで経済的余裕や精神的余裕がなくなり、結婚や出産を先延ばしにするか断念する人も増えています。これらのことは、家庭内時間の減少や少子化の加速につながり、社会保障制度や地域社会にも大きな負担をかけます。
ブラック企業の事例
ここまでブラック企業の定義や特徴、対処法について解説してきましたが、実際にブラック企業で働いている人や過去に働いていた人はどんな体験をしているのでしょうか?ここではブラック企業の事例を紹介します。
1ヶ月休みなし、残業200時間、罵声当たり前の職場環境
大学卒業後、新卒として営業職で入社した会社だったが、繁忙期の3ヶ月間で休みは3日しかなく、1ヶ月休みなしだった月もあった。残業時間は200時間を超えており、そのほとんどがサービス残業だった。
上司や関係部署の人からは罵声を浴びせられることも多く、職場環境は最悪だった。3年で転職したが、今考えるとあまりにもひどい会社だったと思う。
残業代は出ないが残業しないとクビにすると言われる
飲食店でアルバイトしていたが、残業代は出ないと言われていた。しかし、閉店後に掃除や在庫管理などの仕事があり、毎日2~3時間は残業していた。残業しないとクビにすると言われていたので、文句も言えなかった。
ある日、労働基準監督署に相談したら、未払賃金を請求することができると教えてもらった。その後、店長に未払賃金を支払ってもらうように要求したら、すぐにクビにされた。その後、労働基準監督署の支援を受けて裁判を起こし、未払賃金を回収することができた。
パワハラやセクハラが横行する職場でうつ病になった
女性向けの雑誌社で編集者として働いていたが、上司や先輩からのパワハラやセクハラがひどかった。仕事のミスや遅刻を理由に怒鳴られたり、無理な仕事を押し付けられたりした。
また、飲み会や合コンに強制的に参加させられたり、体や服装について下品なコメントをされたりした。人事部に相談しても助けてくれなかった。次第に仕事が嫌になり、うつ病を発症した。医師から休職を勧められたが、会社からは休めないと言われた。結局、自分から退職した。
過重労働で過労死寸前だった
建設会社で現場監督として働いていたが、過重労働で体を壊した。朝5時から夜11時まで働き、休日も出勤することが多かった。残業代は出なかったし、有給休暇も取れなかった。
現場では危険な作業も多く、安全対策も不十分だった。ある日、倒れて救急車で運ばれた。医師からは心筋梗塞で過労死寸前だったと言われた。会社からは退院後すぐに復帰するように圧力をかけられたが、自分の命を守るために退職した。
ブラック企業の社会的影響と在籍者のキャリアへのリスク
ブラック企業は、労働者の権利や健康を無視した企業であり、社会全体に及ぼす影響は少なくありません。ここでは、ブラック企業の違法行為が社会全体に及ぼす影響と、ブラック企業に在籍することが個人のキャリアにとってもたらすリスクについて紹介します。
ブラック企業の違法行為が社会全体に及ぼす影響
ブラック企業は、過重労働や違法労働、ハラスメントなどの違法行為を行っています。これらの行為は、労働者の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、社会全体にも様々な悪影響を及ぼします。以下にその例を挙げます。
ブラック企業で働くことは、ストレスや不安、無力感などの心理的負担が大きく、うつ病や自殺のリスクを高めます。厚生労働省によると、うつ病の労災申請の申請件数は増え続けて、うち自殺者も少なくありません。労災申請されていない潜在的な人数も含めるとかなりの人数になると見られ、社会問題としてもとらえられています。
ブラック企業では、若者が市場価値を高めるスキルや知識を身につける機会が与えられません。また、長時間労働や低賃金労働によって自由に動く機会も奪われます。これらのことは、若者が自分のキャリアを形成することを阻害し、将来的に転職や再就職が困難になります。
さらに、ブラック企業で働く若者は、他の職種や業界への興味や関心も失ってしまう可能性があります。これらのことは、日本全体の技能育成や人材流動性に悪影響を及ぼします。
ブラック企業では、経営陣や上司から従業員へのパワハラやセクハラなどのハラスメントが横行します。これらの行為は、従業員のモチベーションや士気を低下させ、仕事への意欲や責任感を失わせます。
また、従業員は会社に対する不信感や不満を抱き、組織への帰属意識や忠誠心を失います。これらのことは、労使の信頼関係を崩壊させ、生産性や品質、サービスなどに悪影響を及ぼします。
ブラック企業では、長時間労働や過重労働が常態化しています。これらのことは、従業員の健康を損なうだけでなく、結婚や出産、育児などのライフイベントにも支障をきたします。特に女性労働者は、妊娠や出産に対する理解がない職場で働くことで、キャリアと家庭の両立が困難になります。
また、ブラック企業で働くことでうつ病になると、不妊症や流産などのリスクも高まります。これらのことは、日本の少子化問題を深刻化させます。
ブラック企業に在籍することが個人のキャリアにとってもたらすリスク
ブラック企業に在籍することは、個人のキャリアにとっても大きなリスクをもたらします。以下にその例を挙げます。
ブラック企業では、市場価値を高めるスキルや知識が身につかないことが多いです。また、長時間労働や低賃金労働によって自由に動く機会も奪われます。これらのことは、他社への転職を困難にします。
実際に私が経験したことでもありますが、長時間労働が常態化することにより世間から隔離された状態になることで、ニュースの閲覧などの最新の情報収集ができなくなります。
特に新卒でブラック企業に入社した場合は、転職市場では中途採用と同じ扱いになりますが、中途採用では実務経験や専門性が求められます。しかし、ブラック企業では業務に忙殺されることになり、それらを身につけることができません。そのため、転職先を見つけることが非常に難しくなります。
ブラック企業では、仕事内容が単純作業やルーチンワークであることが多く、自分の能力を発揮したり向上させたりする機会がありません。また、教育・研修制度も不十分で、最新の情報や技術を学ぶこともできません。
さらに、長時間労働や過重労働によって自己啓発の時間も奪われます。これらのことは、市場価値を高めるスキルや知識が身につかないことを意味します。そのため、自分のキャリアを発展させることができません。
ブラック企業では、長時間労働や過重労働、ハラスメントなどの違法行為が常態化しています。これらのことは、従業員の心身に深刻なダメージを与えます。
具体的には、睡眠不足や過労による疲労感や倦怠感、ストレスや不安による抑うつ感やイライラ感、パワハラやセクハラによる恐怖感や屈辱感などが挙げられます。
これらの心理的負担は、身体的な不調や病気にもつながります。
例えば、胃腸障害や高血圧、心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病や心臓病、うつ病や自殺などの精神疾患などです。これらのことは、従業員の生活の質を低下させ、仕事だけでなくプライベートにも影響を及ぼします。
ブラック企業では、経営陣や上司から従業員へのパワハラやセクハラなどのハラスメントが横行します。これらの行為は、従業員の自尊心や主体性を失わせます。
具体的には、自分の価値観や意見を持つことができなくなったり、自分の能力や存在意義を否定されたり、自分の人生に対する希望や夢を諦めたりすることです。これらのことは、従業員の人格形成に大きな影響を与えます。
ブラック企業から脱出する方法
ブラック企業に勤めていると、心身の健康や幸福感を損なうだけでなく、キャリアや収入の面でも不利になる可能性があります。そのため、ブラック企業から脱出することは、自分の人生をより良くするための必要な一歩です。
しかし、ブラック企業から脱出するには、様々な困難や障害があります。例えば、退職を拒否されたり、退職金や残業代を支払われなかったり、引き止められたり、ハラスメントを受けたりすることがあります。また、退職後の生活資金や再就職先の確保も大きな課題です。
そこで、ブラック企業から脱出するためには、以下のようなポイントを押さえておくと良いでしょう。
退職理由は明確にする
ブラック企業から脱出する際には、退職理由を明確にしておくことが重要です。退職理由は、自分自身の納得やモチベーションの維持にも役立ちますし、転職活動にも影響します。
退職理由は、具体的で客観的なものにすると良いでしょう。例えば、「長時間労働による健康被害」「賃金不払いやハラスメントなどの違法行為」「キャリアアップやスキルアップの機会の欠如」などです。感情的な言い方や抽象的な言い方は避けましょう。
退職届に書く退職理由は「一身上の都合のため」だけでOKです。
退職届は書面で提出する
ブラック企業から脱出する際には、口頭での申し出ではなく、書面での退職届を提出することが必要です。書面での退職届は、法的な効力がありますし、証拠としても有効です。
退職届は、簡潔に「○○年○○月○○日付けで退職したい旨」「退職理由」「氏名」「日付」「署名」を記入すれば十分です。また、退職届はコピーしておきましょう。
退職日は2週間以上前に伝える
ブラック企業から脱出する際には、退職日は2週間以上前に伝えることが望ましいです。2週間以上前に伝えることで、会社側も人員配置や引き継ぎなどの準備ができますし、労働者側も有給休暇の消化や離職票の交付などの手続きがスムーズに行えます。もちろん、会社側が合理的な理由もなく退職を拒否したり延期したりすることはできません
ブラック企業とは対照的なホワイト企業の取り組み
ブラック企業とは、従業員の健康や幸福を無視し、過重な労働や違法な労働条件、ハラスメントなどの問題を抱える企業のことです。ブラック企業に勤めると、心身の健康を損なうだけでなく、キャリアや収入の面でも不利になる可能性があります。そのため、ブラック企業から脱出し、ホワイト企業へ転職することが自分の人生をより良くするための必要な一歩です。
では、ホワイト企業とはどのような企業でしょうか。ホワイト企業とは、いわゆる世間で言われている「ブラック企業ではない企業」ではなく、「家族に入社を勧めたい次世代に残していきたい」企業を指します。具体的には、以下のような特徴や取り組みを持つ企業ですホワイト企業認定について | 一般財団法人 日本次世代企業普及機構(ホワイト企業普及機構)。
法令遵守
まず、労働基準法など従業員を守るための法律、法令をしっかり守っていることが認定の大前提となります。残業時間や休日出勤、有給休暇や社会保険などの労働条件は適正に管理されており、サービス残業や賃金不払いなどの違法行為は一切行われていません。
ビジネスモデル・生産性
また、自社で行うビジネスが、時代のニーズに合致しているものか、社会的に価値のあるものか、という点も重要になります。ビジネスモデルは競争力があり持続可能であり、生産性は高く効率的であります。また、イノベーションや改善に積極的に取り組み、ビジネスをさらに推進させています。
ワークライフバランス
全ての従業員のワークライフバランスの実現に向けて就業場所や時間、ライフステージにとらわれないような柔軟な勤務形態を導入することで、キャリア実現を支援しています。
残業時間は適切に管理されており、長時間労働や過労死のリスクは低減されています。また、有給休暇や育児休暇などの休暇制度も充実しており、プライベートや家庭との両立が可能です。
健康経営
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。健康経営に取り組む企業は、従業員の生産性やエンゲージメントを高めたり、医療費や離職率を削減したりするメリットがあります。
健康経営に取り組む企業の具体例としては、以下のようなものがあります。
- イオングループ:健康チャレンジキャンペーンや健康ポータルサイトPepUPを通じて、従業員の健康意識や行動を改善しています。
- サッポロホールディングス:定期健康診断の徹底や喫煙者へのサポートを行っており、喫煙者の割合を減らしています。
- Zホールディングス:社内レストランやカフェの設置や勤務中の雑談・懇親会の推奨などで、従業員の栄養やコミュニケーションをサポートしています。
- 佐野テック:社内イベントや運動会などで従業員の健康づくりとチームワークを促進しています。
まとめ
以上がブラック企業についての解説です。ブラック企業は労働者の権利や健康を無視した企業であり、社会的問題となっています。ブラック企業に就職したり在籍したりすることは、自分のキャリアや人生に大きなマイナスとなります。
ブラック企業を見分けるためには、求人広告や面接時に注意することが必要です。また、ブラック企業から脱出するためには、自分の目的や状況に応じて異なる対処法を取ることが必要です。もしもブラック企業に関する悩みや問題があれば、外部機関へ相談することもおすすめです。
ブラック企業は、労働者だけでなく、社会全体にとっても良くない存在です。ブラック企業を許さず、働きやすい職場環境を作ることが大切です。あなたもブラック企業に負けないでください。