「官報(かんぽう)」という言葉をご存知ですか?
一般的にはあまり聞かれないこの「官報」ですが、企業にとっては重要な言葉です。
というのも全ての株式会社は「決算公告(公告とは|官報や新聞・インターネットなどの方法により会社の情報を公開すること)」という「財務情報を公告しなければならない」義務があるため、その公告方法として利用されるからです(上場企業の場合はEDINETや東証の決算短信など強制的に決算内容を公表しなければならないため、探せばすぐに出てきます)。
法務部や営業など新規取引先の与信管理ではよく使われますが、他の部署や会社と直接やりとりをしていない人は馴染みの薄い言葉だと思います。
この「義務である」という点を利用して、転職先候補のチェックを行うのです。
上場企業や大企業であれば決算資料を自社のホームページに載せていることが多いですが、中小企業やベンチャー企業の場合は載せていないことがほとんどです。
ではどこに決算情報を載せるかというと「官報」を利用するのです。
目次
官報で企業情報をチェック
「官報」を利用するのは多くの人にあまり知られたくないからというのが正直なところですが、最低限の義務を果たすことができます。
官報の検索に載っていれば「財務情報」がチェックできるので、そこから企業の数値情報を取得することができますし、載っていなければ義務を果たしていないという点で、「企業体質が弱い」か「少しでも費用を減らそうとしている」企業だと判断できるので、人の扱いに関しても同じことが言えると思います。
転職先候補が載っていない時点でブラック企業の可能性が高まるということは覚えておきましょう。
インターネット版官報を掲載している公式のホームページです。
リンクに飛んでもらうとわかると思いますが、かなり「お堅い」感じのページです。
インターネット版官報で載せた内容をデータベース化しているサイトです。
実用性はこちらの方が高いです。企業名から検索ができるので便利です。
逆にここに載っていない企業は注意が必要でしょう。
官報がとういうものか見てみよう
まずは官報がどういうものか見てみましょう。
大企業の場合はホームページや決算報告、クチコミサイトで情報が見れるので確認ができますが、中小企業の場合は情報がないことが多いです。そのため、少しでも会社情報を集めるために官報を使うのです。
中小企業でも最低「貸借対照表」の提出が義務付けられています。
決算公告
中小企業であっても「貸借対照表」の提出は義務付けられています。この中で注目すべきなのは純資産の「利益剰余金」の合計額です。この「利益剰余金」は「企業の毎年の利益の合計額」と言い換えることができます。もちろん事業内容によって利益を出すタイミングが異なりますが、一つの目安として見ておくと良いでしょう。
実際の決算公告を見て見ましょう。
なお、企業を選びに意味はありませんのでご心配なく。
東京電力エナジーパートナー株式会社
この企業の場合は大企業なので「損益計算書」と「貸借対照表」が公告されていますが、多くの企業は「貸借対照表」のみが表示されていると思います。
「貸借対照表」で利益を見たいときは「利益剰余金」の項目を見ましょう。「負債」が多く「利益剰余金」がマイナスの場合は経営難になっている可能性があるため、待遇も悪い可能性があります。
ただし、創業間もない企業企業の場合は利益が出ないことは珍しくないことが普通ですので、5〜10期以内くらいを目安にするといいでしょう。
中小企業の例
この企業は現在スパイダープラス(証券コード|4192)という名前で東証マザーズに上場している企業ですが、当時は上場前だったため、「官報」に決算公告を載せていました。
リンクの官報データベースを検索すれば、過去の情報も出てきますので、業績の推移を確認することができます。
決算公告は以下のサイトでまとめてチェックすることができます。
義務でも提出していない企業が多い
「決算の公告」は株式会社の規模に関わらず全ての企業が行わなければなりません。
上場・非上場・中小企業関係なく全てです。
ですが、実際には公告していない企業も多くあります。
私も取引先の与信チェックをする際に「官報」の「決算公告」をチェックしていましたが、載っていないことも多くありました(その場合は企業ホームページをチェックし、会社情報の資本金のみを確認します)。
そのため、企業を判断するときの最初の関門が、業績以前に「決算公告」を提出しているかどうかがということになります。
ここでも確認できなければ「帝国データバンク」などを利用して信用調査を行う必要がありました。
公告しなくても罰則がない
正確には罰則はありますが、行使されることはほとんどないというのが実態です。
第四百四十条
株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
会社法|第440条
上記のように法律上で義務付けられている決算公告ですが、仮に公告しなかったとしても罰されることがないのが実情です。
中小企業・ベンチャー企業ではまず「決算公告専用」のホームページを作っていたりしていないでしょうから、「官報」を利用することがほとんどですが、載っていない企業も多くあります。
ですが、実際に罰則が適用された事例はほとんどないため、官報に掲載せずにやり過ごすということが多いのです。
官報に載せるのはお金がかかる
官報に決算公告を載せない理由に「お金がかかる」という理由があります。
もっとも、それだけでなく中小企業の場合は「ただ単に知らない」ということがありますが。
金額的には一番安くても年1回「10万円程」です。
官報を掲載するための会社に依頼するためにはお金がかかります。
中小企業にとってこの金額はバカにできないコストですので、少しでも費用を減らそうと決算公告を出さないことがあるのです。
義務であることを知っても知らなくてもブラック企業の判定材料になりうる
ここまでみてきたように、知っているかどうかに関わらずブラック企業の判断材料になり得ます。
決算公告は毎年必ずしなければならないため、一定のコストがかかるという点と、一般的にはあまり知られていない項目のため、企業運営の知識として持っている人がいるかどうかがわかってしまうからです。
知らずに提出していない場合|
悪気があるかどうかは関係なく、知らないという時点で危険です。
他の人事制度が整備されていたとしても、無意識のうちに肝心なところが抜けていて、入社したら思っていたよりも待遇が悪くなっていたり、全体的に組織が未熟なため、他の部署のカバーに奔走するということになりかねません。ベンチャー企業に入社を考えている方はこの辺りは覚悟しておくべきでしょう。
知っていて提出していない場合|
こちらはいうまでもなく悪質です。が、実際多いのも事実です。この場合はいうまでもなくコストを抑えることを目的としていますので、人件費を抑えることにさまざまな工夫をしてくるでしょう。
固定残業制・みなし残業代・年俸制・名ばかり管理職などなど、基本給部分を下げつつ、制度を利用して残業代支給の上限時間を決めたり、基本給に残業代が含まれているといったり、長時間労働が常態化していることがあります。
また、こういった企業の場合は罰則がなければ違法行為をすることに抵抗感がなく、モラルが欠けている場合があるため、ハラスメントが日常茶飯事なんて事もあり得ますので注意が必要です。
まとめ
ブラック企業の判断は求人情報のコメントから判断するという手もありますが、少し角度を変えてみるとこういった判断材料もあるということは覚えておくと、総合的な判断ができます。
転職活動や就職活動では「企業に入る」点が重視されコンテンツが充実している一方で、企業判断に関する情報がほとんどないという点から今回の記事を書かせていただきました。
判断材料が多い方が、ブラック企業で心身ともに疲弊し、キャリアを無駄にしてしまうという悲劇を避けることにつながります。
終身雇用制度がとっくに崩壊した今、1社で生涯勤め上げる人は減り続けるでしょうし、企業選びの重要性はこれからも高まっていくでしょう。
ご自身の経験だけでなく、こういった自分の業務だけでは知り得ない情報を知ることが自分を守るためにも重要な対策となります。
どんな会社に入ったとしても、次の7つの点は必ず押さえておきましょう。
以上、今回の記事がお役に立てば嬉しいです。
それでは