今回は少しデリケートな話をしていきたいと思います。
「うつ病とは心の風邪である」
こんな言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
実際になった人間から言わせてもらうと全く違います。
「うつ病は脳の病気です」
この違いが何を意味するのかわかるでしょうか?
根本的な解釈が間違っています。世間一般で解釈されているうつ病とは一体なんなのかを見ていきましょう。
目次
うつ病は風邪程度の病気なのか?
一口にうつ病と言っても症状は様々です。
特に大きく取り上げられる事例は自ら命を経ってしまう「自殺」でしょう。
私はうつ病ですが、この死にたいというところまで入っていないのでなんとも答えようがありません。
ですが気持ちはわかると言った感じです。
ではうつ病とはどんな病気なのか?
うつ病は「脳の病気」です。
脳が正常に機能しなくなる病気だと言った方がいいでしょう。
どうですか?
心の風邪というよりも具体的になったのではないでしょうか?
もちろん精神を司っているのは脳なので、心という表現はわかりやすいために使われているのでしょうが、これが大きな誤解を生んでいると思います。
ここで最初に疑問が出てくるのが、「こころ」とは一体何を意味しているのか?ということです。これは哲学でも言葉遊びでもありません。
うつ病に対する誤解の本質がここにあると思います。
「脳」といえばはっきりとしたイメージがわかります。場所もわかるし、物質としてのイメージや体の中での役割が理解できます。
「こころ」はどうでしょうか?はっきりとイメージできますか?なんとなく漠然としたもので精神的なもの、感情や意識など自然と湧き上がるものです。状況や場面によって発生した「感情」を指しています。
この違いが大きな誤解につながっています。
「感情」は「意識」によってコントロールすることはできますが、「脳」の働きをコントロールすることは可能でしょうか?残念ながらそれはできません。
つまりこういうことなのです。うつ病を「心の風邪」だと思っているから、ネガティブ思考におちいっているなら「気の持ちよう」でなんとかなると思えるのです。
例えば、考え方をポジティブにしたり、「細かいことを気にしないようにすればいい」など感情や意識をコントロールすれば解決すると考えます。
ではそれが「脳の病気」ではどうでしょうか?
- 脳の働きが正常に機能しなくなっていることが原因だとしたら?
- ポジティブになることで解決するでしょうか?
- 細かいことを気にしないようになれば解決するでしょうか?
残念ながら不可能です。そもそもコントロールできない物質部分の「損傷」なのですから。骨折や靭帯損傷した部分が「気の持ち用」でなんとかできないのと同じように、脳を激しく酷使した末に生じた「損傷」のため、物質的な治療をする必要があるのです。
脳の働きと感情が結びついているのは確かです。脳は思考や感情を司っている中枢ですから。ですが「こころ」とは脳が生み出している感情に過ぎません。脳の働きによって生じた表面的な部分でしかないのです。
この理解が進まないために、うつ病患者と健康な人の「無意味なアドバイス」の溝が埋まらないのです。
参考動画|精神科医がこころの病気を解説するCh
進まないうつ病の理解
うつ病について話題に上がるようになったのは割と最近の話ではないでしょうか。
特にメンタルヘルスなどが企業で取り入れられるようになったり、働き方改革によって残業時間が精神に影響を及ぼすことに関連性があると分かってからは、制度的にうつ病の防止に動き始めたところだと言えます。
ですが企業にいる方はわかると思いますが、現場の反応は冷ややかです。
「自分達の若い頃はもっと苦労していた」
「最近の若い奴は軟弱だ」
挙句の果てには
「メンタルヘルスのアンケートだけど、このままだと産業医の面談が必要になるから書き直してくれ」
と言われたこともありました。
これが現実なのです。
そもそも強制されたから仕方なく形だけやってはいるものの、実態はそうはなっていません。
ですが統計上はこのようになるでしょう。
「企業側もメンタルヘルスの重要性を認識し、具体的な施作を実行している」と。
ですが形だけのアンケート調査が一体なんの役に立つというのでしょうか。
その後、その会社では精神疾患で倒れた人間が出ましたが、「彼はデリケートだから」「かわいそうにね」という言葉で片づけられていました。
まだまだうつ病に対する正しい認識が広まるには時間がかかりそうです。
うつ病は人に言えない
このように、現場レベルではうつ病というものは「やっかいなもの」ではあるものの、対策をしなければならないとは思っていません。
むしろ「なった人間が弱い」「なった人間が甘い」などという言葉が自然に飛び交います。
よくある「昔はもっと大変だった」という昔自慢が始まります。
「俺が若い頃はサービス残業を200時間はやっていたよ」
「俺なんて丸3ヶ月は休みなしで働いていたね」
メンタルヘルスの会議のはずなのに、いつしか若い時の苦労自慢大会の開催です。
ですがここで重要な部分が抜け落ちています。
当時の彼らの同期にも「精神疾患になった人間がいた」という事実です。
中には自殺までしたという事例もありました。
ですがそのような実態は無視され、生き残った人間の言葉だけが発せられています。
まさに死人に口なしというわけです。
このような人たちに対して、精神疾患になりかけている人たちがどうして相談できるでしょうか?
相談しても無駄なため、誰も何も言えなくなります。
こうしてまた一人、うつ病で会社を休職・退職する人間が出てくるのです。
厚生労働省の調査によるとうつ病の患者数は増え続け、平成29年には124万人もの人数がいます。しかし、これは受診した患者数の統計であり、潜在的な患者数は、はるかに多いと想像できます。この傾向は今後も続くと見られ、社会の理解どの向上は喫緊の課題です。
うつ病患者をどう扱っていいかわからない
うつ病から復帰を目指す従業員もいました。ですが受け入れ先がありません。
皆どのように扱っていいかわからないからです。
- 「また会社を休むんじゃないか」
- 「休んだら責任者である自分のせいにされるんじゃないか」
- 「うちの部署では引き取れない、そっちの部署で引き取ってくれ」
こんな会話が繰り広げられます。
そして復帰した従業員には仕事を振ることができません。
もちろん体調面の心配がありますから、本人も職場もどの程度の業務負荷をかけていいのか手探りなのはわかります。
ですが実際に待っているのは手持ちの業務が何もない状態、つまり干された状態になります。
復帰のために徐々に負荷を上げていくのではなく、完全に干されます。
復帰前は産業医と職場が相談し、どの程度の業務がどれくらいの負荷があり、ステップアップしていくにはどうするべきか。という話はされますが、これも形式的なものです。
結局のところ、うつ病患者とは謎の、いつ休むかもしれない不気味な存在でしかないのです。
実質戦力外となった従業員は結局退職したという話はよく聞きました。
まとめ
これまで見てきたように、企業にとってうつ病患者とは厄介なお荷物以外の何者でもないというのが実情です。
そもそも使い方がわからないからです。
もちろん全ての企業がこうだと言っているわけではありません。
中にはちゃんと社会復帰を果たし、活躍している社員もいます。
ですが現状それは少数派です。
今経営やマネジメント層にいる人たちはうつ病に対する理解は低いのはある意味仕方のないことかもしれません。
自分達が生きてきた世界には「うつ病患者はいなかった」のですから。
うつ病と呼ばれる症状が認知され始めてまだ年数が経っていないこともあるため、すぐに社会的に認知されることを期待するのはお互いにとってよくないのかもしれません。
片方は過剰に警戒し、片方は過度に期待をする。
このギャップを埋めていくのが今後の課題であり、うつ病となった人間である私の役割だと思っています。
健康な人間に対して、うつ病という病気が身近な存在であること。
適切な距離感を保てば活躍の場はあること。
こういったことが認知されるようになるにはまだまだ時間がかかるでしょう。
私は今のトップ層の次の世代がこの鍵を握っていると考えています。
まだ若く、変化に対して抵抗感の少ない若者が社会の中心となる時、うつ病に対する理解が広がるとともに、患者数の減少と、うつ病患者の生きるべき場所としての職場環境が整備されるために私は情報発信を続けるつもりです。
以上、今回の記事が参考になると嬉しいです。
それでは