管理職の残業代請求は難しいと思われがちですが、実は管理職でも残業代を請求できる場合があります。しかし、労基署に頼ってもなかなか解決しないことが多いので、弁護士に相談したほうがスムーズに手続きが進むことを紹介します。
目次
管理職でも残業代を請求できる場合とは
管理職という役職名だけでなく、実際の業務内容や権限によって管理監督者かどうかが判断されます。管理監督者とは、自分の判断で業務を決めたり、他の社員に指示したり、採用や昇進などの人事権を持ったりする人のことです。管理監督者に該当しない場合は、残業代を請求できます。例えば、以下のような場合は、管理監督者に該当しない「名ばかり管理職」の可能性が高いです。
- 会社からの指示に従って業務を行っている
- 他の社員に指示する権限がないか、あっても実際には行っていない
- 人事権がないか、あっても実際には行使していない
- 業務内容や時間について自由に決められない
- 管理職手当や役職手当などの特別な手当が支払われていない
これらの場合は、名ばかり管理職と呼ばれることがあります。名ばかり管理職は、管理監督者としての権限や責任がないのに、管理職としての残業代が支払われないという不利益を受けています。このような場合は、管理職としての残業代を請求する権利があります。
労働基準監督署に訴えた結果
名ばかり管理職の件で労働基準監督署に訴えた体験をお話しします。
結果を先に言います。
との回答でした。
最初に労働基準監督署に証拠を提出した時には、
「これだけ証拠があれば大丈夫だと思います。実際、管理監督者の定義に該当する人は少ないですからね」
と言う意見だったので期待をしていましたが、残念な結果となりました。
では労働基準監督署への手続きはどのように進めたかについて、説明していきます。
このブログをご覧になっているということは、これから訴えようとしているか、訴えようか迷っている方でしょう。
迷うことはありません。「未払い残業代請求」というと、わざわざこちらから主張する「権利」のように聞こえてしまいますが、正確にいうなら「企業のあなたに対する借金」なのです。
残業代の未払いということは、すでにあなたは会社に対して「労働力を提供している」のですから、会社はその「対価=お金」を支払わなければなりません。
借金の返済は「義務」です。
言い換えると、「お金を貸した相手に返済を求めている」のです。
しかもその金額は数百万円、多い人なら1千万円を超える場合もあるでしょう。
これだけの金額のお金を踏み倒されたらどうしますか?訴えますよね?
あなたがやろうとしているのはこの「踏み倒し」を狙っている相手に「返済」を求めているだけなのです。
何もおかしなことはしていません。その状態を放置している方がおかしいのです。
迷わず「貸したお金」を返してもらいましょう!
参考動画|個人のための法律手帳【ベリーベスト法律事務所】
労基署に頼っても解決しない理由とは
管理職の残業代請求に対して、労基署は消極的な対応をすることが多いです。労基署は、労働者の権利を守るために存在する機関ですが、管理職の残業代請求に関しては、以下のような問題があります。
労基署は、管理職の残業代請求に対して、会社に対して調査や指導を行いますが、その内容や方法が不十分であることが多いです。例えば、労基署は、会社から提出された資料や証言だけをもとに判断したり、管理職の実態を十分に把握しなかったり、管理職の立場や業務内容についての専門的な知識がなかったりすることがあります。その結果、管理職の残業代請求が認められなかったり、残業代の額が低く見積もられたりすることがあります。
労基署は管理職の残業代請求に対して会社との調停や和解を仲介することがありますが、その内容や条件が不利になることが多いです。例えば労基署は、会社の事情や立場を優先したり、管理職の要求を抑えたり、管理職に不利な条件を受け入れさせたりすることがあります。その結果、管理職の残業代請求が棄却されたり、残業代の支払いが遅れたり、弁護士費用が負担されなかったりすることがあります。
労基署は管理職の残業代請求に対して、会社との裁判において管理職の代理人として出廷することがありますが、その可能性や効果が低いです。労基署は管理職の残業代請求に対して、裁判に進むことを勧めなかったり、裁判に出廷する人員や時間が不足したり、裁判に必要な証拠や主張が不十分だったりすることがあります。その結果、管理職の残業代請求が敗訴したり、裁判が長期化したり、裁判費用が増加したりすることがあります。
以上のように労基署に頼っても、管理職の場合の残業代請求はなかなか解決しないことが多いようです。そのため、労基署に頼るよりも、弁護士に相談したほうが結果スムーズに進むと思います。
労基署に訴える手続きは覚えておこう
ここまで言っておいてなんですが、管理職でなくてもサービス残業をしている場合や、管理職でもケースによっては解決できることもあるかもしれませんので、実際に私が行った手続きをご紹介します。
残業代を請求するには、時効という期限があります。時効とは、一定期間請求しないままでいると、その請求権が消滅してしまうという法律上の制度です。残業代の場合、時効は3年です。つまり、3年間放置してしまうと、残業代を請求できなくなってしまうので注意が必要です。
証拠品は以下のものを集めました。
私の場合は退職後に残業代請求をしましたが、在職中にこの会社がブラックだと言うことはわかっていたので、万が一のために準備していました。
- 雇用契約書
- 勤怠記録のコピー
- 給与明細
- 就業規則
- 賃金規定
コピーするのは大変でしたが、これで労働基準監督署へ行く準備ができました。
さあ、証拠品がそろったので、いよいよ労働基準監督署へ行きます。
労働基準監督署は会社のある地域を管轄しているところに行く必要がありますので、事前に調べておきましょう。
管轄の労働基準監督署がわかったら、資料を持って直接いきます。
※開いているのは平日の日中( 8:30 ~ 17:15 )しかないので、在職中の方は注意しましょう。有給を取れれば有給を使い、難しければ病欠なり通院してから行くなり、理由をつけて行くのが良いでしょう。相談時間は大体1時間ちょっとくらいを目安にすれば良いと思います。
受付で「名ばかり管理職の残業代請求の件で相談に来ました」と言えば担当者に取り次いでくれます。
係長以下の方でしたら、「未払い残業代請求の件」と言えば伝わると思います。
担当の方が来て相談席に通されます。
持ってきた証拠書類を担当者に渡しましょう。
その際、担当者がコピーをとってくれますので、頑張ってコピーを取る必要はありません。
最初にアンケート用紙を渡されますので、コピーをとっている間に記入しましょう。
ここでは「匿名」か「実名」かを記入する欄がありますので、ご自分の状況に合わせて記入しましょう。
残業代を回収したいのなら「実名」一択です。
これは労基署の方の話でもありますが、「匿名の場合は名前がわからないように総合的に調査をしなければならないので、時間的な制約もあり、確実性は下がる。そのため、実名の方が特定人物の資料調査に注力することができるため、指導する側も調査しやすい」とのことなので、「実名」で訴えましょう。
ただ、同じ会社で働き続けたい場合は「匿名」でもいいと思いますが、残業代を出さないような会社からは転職することをオススメします。
労基署の指導は強制力があるわけではないので、すぐに改善するとは限りませんし、組織文化や人の考えは簡単には変わりません。
最終的な判断はお任せしますが、世の中には他にもたくさん会社があるということと、自分自身を守ることができるのは自分だけということを覚えておきましょう。
アンケート用紙に不明点があれば空欄で構いません。後で担当者に確認しましょう。
まずは証拠書類の説明をします。
次に担当者からいくつか質問があるのでそれに答えます。
その際、疑問点は担当者に質問をして聞いておくのが良いでしょう。
退職済みの方は難しいと思いますが、在職中の方は追加で証拠品が必要な場合は改めて準備しておく資料について要求があるかもしれません。
ここからはあなたがやることは特にありません。
労働基準監督署の調査担当の方が会社に対して調査を行います。
何度か調査担当が企業に行き、聞き取り調査を行います。
ここでもこちらでやることは何もありません。
ただ1ヶ月くらい期間が空くので、気になる方は進捗を確認するのも良いでしょう。
そして調査報告結果の連絡がありました。
「名ばかり管理職であることは明らかだが、行政機関として強制力がないため、指導には至らなかった、悔しいがこれで調査を終了せざるを得ない」
と言う回答でした。
ある程度期待をしていたので残念な結果となりましたが、次の手段として弁護士を利用すると言うのはわかっていたのでそれほどショックではありませんでした。
管理職は弁護士に依頼したほうがいい理由
管理職の残業代請求に対して、弁護士に相談したほうが得する理由は、以下のようなものがあります。
弁護士は管理職の残業代請求に関する法律や判例を熟知しており、管理職の実態や業務内容についても詳しく調査することができます。そのため、管理職の残業代請求が認められるかどうかを正確に判断したり、残業代の額を適正に算出したり、必要な証拠を収集したりすることができます。
弁護士は管理職の残業代請求に対して、会社との交渉や裁判の方法を知っており、効果的に対応することができます。そのため、会社との和解や裁判の準備をスピーディーに進めたり、残業代の支払い時期や条件を有利に決めたり、裁判の勝利に必要な主張や証拠を提示したりすることができます。
弁護士は管理職の残業代請求に対して、弁護士費用の回収も可能であることを知っており、そのための手続きを行うことができます。そのため、弁護士費用を自己負担する必要がなくなったり、弁護士費用を会社に請求したり、弁護士費用を裁判で勝ち取ったりすることができます。
まとめ
労働基準監督署の担当者が言っていたように、調査には法的強制力がないため、踏み込んだ調査(資料の強制調査など)ができないということでした。
また、行政指導をしたとしても、従うかどうかは企業の任意のため、支払うことを強制することができない(行政の限界)との回答でした。
そして証拠品として足りなかったのが、上司からの指示メールや指示を受けた記録(メモ)でした(もちろん録音でも構いません)。
この辺の話は【内部リンク】証拠を集めろ!上司からの指示メール!(名ばかり管理職編)でもお話ししていますので、興味がある方は読んでみてください。
そのため改めて必要な証拠品を整理すると以下のようになります。
- 雇用契約書
- 勤怠記録のコピー
- 給与明細
- 就業規則
- 賃金規定
- 上司からの指示メール(指示のあった記録、メモや録音など)
これだけあれば、労働基準監督署でもなんとかなるかもしれません。
ただ、スムーズな解決を望むなら、最初から弁護士に依頼したほうが解決までの時間を短縮できるとおもいます。
名ばかり管理職ではなく、役職なしの方のサービス残業代の請求なら労働基準監督署でも良いと思います。もちろん弁護士の方が確実なのはいうまでもありませんが。
ここまでの証拠を準備する必要がないと言うのもありますし、法的強制力を持つと言うのはやはり強力な武器です。
実際それまで猛烈に抵抗していた会社側が、弁護士を立てた途端に和解に動き出したので、効果は大きいと思います。
このブログでは万が一に備えて、自分を守るために日頃から準備しておくべき7ヶ条を設定していますのでご紹介します。
どんな職場でも万が一のために以下ができるようにしておくこと!
①|出退勤のメモを取る(1分単位・休憩時間の業務含む)
②|上司の指示・発言内容のメモを取る(指示メールは保存しておくこと)
③|連続勤務日数の記録(連続12日以上ある場合は注意!)
④|給与明細は書類で手元に用意しておく
⑤|雇用契約書はすぐに用意できるようにしておく
⑥|管理職は組織図を手元に持っておく
⑦|トラブル時の弁護士は【 日本労働弁護団 】へ連絡する
メモとしているのは、企業によって荷物の持ち込み禁止の場所があるからです。
それを悪用し、セクハラ・パワハラなどのハラスメント行為や、長時間労働などが常態化している職場があります。
自分の身を守り、のちのち、泣き寝入りせずに反撃できるような資料は用意してくことが大事です。
最後に時系列を整理すると下記の通りです。
労基署だけでなく、総合的な残業代請求をまとめたフローを記事にしていますので、全体像を把握したい方は参考にしてください。
以上、名ばかり管理職での残業代請求を労働基準監督署に依頼した流れと結果です。
これから労働基準監督署に訴えようと思っている方の参考になれば幸いです。
それでは