仕事が原因でうつ病になり、労災認定を受けることができると、会社から休業損害や慰謝料などの請求ができるようになりますが、その方法や注意点はあまり知られていません。
この記事では、うつ病で労災認定された場合の会社への請求方法や注意点について、以下の内容をご紹介します。
具体的には下記の請求ができます。
- 休業損害(平均賃金の40%)
- 休業損害をもらうまでの待機期間3日分の給料
- 仕事ができなかった期間に対する慰謝料
- 退職せざるを得なかった場合の復職
これから労災申請を考えている方や、すでに認定された方はぜひ参考にしてください。
目次
休業損害
休業損害とは、仕事ができなくなったことによって受けた経済的な被害のことです。
労災でもらえる休業補償は、発症前過去3ヶ月の平均賃金がベースとなります。
まずこの平均賃金についての計算ですが
平均賃金
=
( 基本給 + 残業代 + 通勤費 )
という計算になります。
基本給の中身には部長クラスや課長クラスなど、役職者になった時の役職給も含まれます。一言で言うと、雇用契約書に書かれている固定部分の給与のことです。
残業代計算の元になる基礎額の控除額は下記図のとおり決まっており、それ以外の手当は除外できません。つまり「役職給」や「業績給」、「成果給」等も残業代計算の基礎(つまり基本給)として扱う必要があります。
そのため、管理職を「管理監督者」扱いとし、一部の手当(役職給など)を残業代とみなすような報酬体系をしている場合、残業代請求や労災補償額の平均賃金を計算するときは役職手当を含んだ金額を基礎額として、残業時間分の乗率をかけた金額を支払わないといけません。
基本給
=
( 基本給 + 能力給・評価給 + 役職給 )
会社側はこの役職給は残業代の代わりとして支給しているという認識の企業も多いと思いますが、多くの場合はその主張に該当しません。
実際「管理監督者」として相応しい報酬とは、係長クラスがいくら残業したところで届かないほどの給与(例えば役員クラスの給与)のことを言います。
そのため、サービス残業をしている人はいうまでもなく、役職者についても、並行して「名ばかり管理職」による残業代請求を行うべきです。
なぜなら、残業代請求の結果次第で、休業補償の金額が大きく変わるからです(私の場合は倍以上違いました)。
残業代請求については下記記事にまとめていますので、思い当たる節のある方はご覧ください。
管理職でも残業代はもらえる!弁護士と相談して300万円回収した方法≫ 残業代が出ない?サービス残業?ちゃんと会社に請求しましょう(残業代請求体験談)
確認すると休業補償の内訳は下記の通り
平均賃金の60%
+
労働基準監督署からもらえる
休業特別給付20%
つまり、支給されていなかった残りの平均賃金の40%分を会社側に請求することができます(これで平均賃金分だけで合計100%支給となります)。
うつ病治療は長期にわたるため、金額も大きくなる傾向がありますので、忘れずに請求するようにしましょう。
休業損害をもらうまでの待機期間3日分の給料
これは休業補償をもらうために必要な待機期間3日分(会社から給与をもらっていない期間)に対してして、平均賃金の60%を請求することができます。
休業開始後3日分の給料とは、労働基準法第26条に基づいて支払われる賃金です。この条文によれば、「労働者が傷病又は出産のために休業した場合においても,その休業した日から起算して最初の三日間については,通常の賃金を支払わなければならない」と定められています。
なぜ60%なのかというと、休業補償の計算は下記にように計算されているからです。
労災の休業補償の支給額80 %
=
休業補償給付60 %
+
休業特別給付20 %
この休業特別給付は労働基準監督署から上乗せでもらえる補償金のようなもので、厳密には休業補償のみが会社が負担すべき給与です。
つまり、労災をもらうために会社が支払わなかった待機期間の3日分の給与の埋め合わせをするということです。
仕事ができなかった期間に対する慰謝料
仕事が原因でうつ病になってしまった場合、精神的苦痛や生活への影響を考えると、単に経済的被害だけでは補えませんよね。そこで考えられるのが「慰謝料」です。
これは発症時点からが起点となって計算されます。
うつ病などの精神疾患の場合はいつが起点になるかが難しいですが、労働基準監督署が労災認定される際に日程を決めますので(大抵の場合は労働者有利に決めてくれます)、その日を発症日として計算することができます。
一般的には交通事故と同様の通院慰謝料算定表で算定される場合が多いそうですが、詳しくは弁護士に相談してみると良いでしょう。
参考までに入通院慰謝料算定基準についてのリンクを貼っておきます。
退職せざるを得なかった場合の復職
私の場合は復職を求めていませんでしたので、この請求自体は行いませんでした。
そのためこの項目に関しては参考までに読んでください。
本来は労災が認められたうつ病の社員を解雇や休職期間満了という理由で退職させることはできません(解雇する場合は1,200日分の給与を支払う必要があります|労働基準法第81条)。
労災が認定されるということは、業務起因による疾病なので、会社側が一方的に解雇することはできないということになります。
しかし、現実的には労災が認められるにしても、調査が半年以上かかるケースが多いので、その間に退職せざるを得ない方も多いでしょう。
その場合の対抗策として、会社に対して解雇や自主退職を無効を請求するということができる場合がありますので、弁護士に相談してみましょう。
このケースの場合、自主退職という扱いで退職される方が多いと思います。復職を目指す場合は弁護士に相談する価値はあると思います。
もっとも、個人的には精神疾患にまで追い込むような職場への復帰はおすすめしませんが。
まとめ
以上、この記事で見てきたことは知っている知らないで大きく差ができる部分です。
金銭的な補償がされれば、心理的な負担が減り、その分治療に集中することができますので、覚えておくと良いでしょう。
まだ労災の申請をされていない方は下記記事を参考にしてみてください。
すでに労災認定をもらっている方は、治療に専念し、回復(寛解)した時点で弁護士に依頼し、上記の内容に対する請求を会社に行いましょう。
最悪の場合は裁判になる恐れもありますが、労災認定されているという事実は有利に働くということなので、そこまで悲観する必要はないと思います。
大抵の手続きに関しては弁護士が代理人として進めてくれるので、直接当人がやることの負担は多くありません(会社との交渉が和解で終了すれば1度も出向くことはありません)。
以上、今回の記事が皆さんのお役に立ったのなら幸いです。
それでは