今回は労働基準監督署から労働局への意見書の内容を公開します。
労災申請をするときに、最も重要な書類のひとつが意見書です。意見書とは、労働基準監督署が労働局に提出する報告書で、労災認定の最終プロセスになります。この意見書は、本人以外は閲覧できない貴重な資料であり、どのように作成されるかはほとんど知られていません。
この意見書は、労災認定の重要な報告書となるものなので、実物の労災認定を受けた意見書を見れば、事前の準備と対策が練りやすくなるのではないか?との意図で記事を書きます。
例えるなら、大学受験の過去問みたいなイメージで使っていただければと思います。
目次
意見書とは何か?
意見書とは、厚生労働省が定めた「精神障害の労災認定」に基づき労基署が最終判断した心理的負荷を記したものです。
つまり、事業主や医師から提出された資料や証拠をもとに、労基署が行った調査や聞き取りの結果や判断理由をまとめた報告書です。この報告書は、最終的に労働局長あてに送られます。そして、労働局長はこの報告書を参考にして、最終的な労災認定の可否を決めます。
不忍は会社に入社し、業務に従事していた。
不忍は、要旨「恒常的な長時間労働等が原因で精神疾患を発病した」と訴え、労災請求に及んでいる。
不忍は指針の変調について、要旨「異変に気づいたのは、〇〇頃です。眠れなくて、深く考えられなくなり、思考力の低下を感じ始めました。夜眠れなくなってから朝食を取らなくなりました」「一睡もしないで出勤することもありましたが、業務上どうしても納期がたくさんあったため、出勤せざるをえませんでした。眠れないだけではなく、めまい、頭痛がひどくなっていき、会社を休んだ当日には起き上がれないほどでした」と申述している。
会社で不忍の心身の変調に気づいたものは確認されていない。
不忍が〇〇日に受信したクリニックの医師が作成した意見書によれば、要旨、受信の端緒および初診時の主訴は「〇〇ごろより意欲低下、不眠、抑うつ気分等の症状出現、〇〇日より出勤できない状態が続いたことから〇〇日に当院初診となった」、初診時の症状は「意欲低下、不眠、抑うつ気分、集中力低下、食思不振等」、疾患名及び診断根拠は「抑うつ状態;抑うつ気分、不眠、意欲低下、集中力低下、食思不振等の症状が遷延しているため」、発病時期及び診断根拠は〇〇と記載されている。
また、産業医の意見書によると、要旨「面談実施日;〇〇日。疲労の蓄積状況;高。心身の状態;所見あり。医師判定;要保健指導、要再面談(時期1、2か月後」「面談実施日;〇〇日。疲労の蓄積状況;高。心身の状態;所見あり(抑うつ、集中力の低下、著しい疲労感)。医師判定;要保健指導、現病治療継続、症状改善なければ医療機関の受診を早めに行ってください」と記載されている。
以上を踏まえ、不忍の心身の変調等をICD-10の診断ガイドラインに照らし、疾患名及び発病時期について検討すると、不忍は〇〇頃より不眠、食欲不振、思考力の低下、意欲低下、抑うつ気分等の症状が出現し、諸症状が顕著となり、〇〇日に受信に至っている経緯から、〇〇日頃にF32の「うつ病エピソード」を発病したものと考えられる。
本件の発病前おおむね6ヶ月間における発病に関与したと考えられる業務関連の出来事について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表1を指標として以下を検討する。
署の調査結果によると、業務が重なり、〇〇日から〇〇日までの12日間連続勤務を行なっていたことが確認されている。この具体的出来事は「2週間以上にわたって連続勤務を行なった」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と判断される。
また、この出来事の後に、業務の遅れ等により、月100時間を超える時間外労働が確認されており、出来事の後に恒常的な長時間労働が確認されることから、心理的負荷の総合評価は「強」と判断される。
もうわかりましたね?
そうです。興味のある方だけ読んでください。
というのは冗談ですが、公開されている「精神障害の労災認定」が判断材料になっており、心理的負荷が「強」に該当するかどうか。また、「強」ではなく「中」が複数ある場合でも、総合的に判断して「強」になることがあることは理解しておくべきでしょう。
「強」に該当しなくても、自分が経験した負荷をリストとして書き出し、マニュアルに沿って当てはめていくやり方は有効な手段だと思います。
意見書のポイントと注意点
意見書を読むことで、労災認定に関する以下のポイントや注意点がわかります。
- 「事業活動と負傷・疾病等との因果関係」が必要です。つまり、仕事と負傷・疾病等との間に直接的かつ明確な関係があることを証明しなければなりません。
- 「医学的根拠」も必要です。つまり、負傷・疾病等が仕事によって引き起こされたことを医師から診断された資料や報告書で示さなければなりません。
- 「客観的証拠」も必要です。つまり、負傷・疾病等が発生した日時や場所や原因や経過を目撃者や同僚や上司などから聞き取った証言や記録で裏付けしなければなりません。
- 労基署は「事実関係」を重視します。つまり、請求者の主張だけではなく、事業主や医師や目撃者などから提出された資料や証拠をもとにして判断します。
業務起因性が重要
1.医師・産業医ともに共通の診断結果を下している
2.業務用要因のガイドラインに従い、事実と照合した結果、心理的負荷の総合評価は「強」である
この2点が重要となります。
特に、精神疾患による労災認定はこの業務起因性が「強」であるかどうかが重要となるので、連続勤務と月100時間超の恒常的な残業によって業務起因として認められたわけですね。
参考動画|弁護士西川暢春の咲くや企業法務TV
参考資料
労災認定のガイドラインについてリンクを載せておきますので、もしご自分の体調不良が業務に起因するものなのではないか?と疑問を持たれている方は一度読んでおくことをオススメします。
労災関係についてはいくつか記事をあげていますので、気になる方は参考にどうぞ。
以上、この記事が皆さんのお役に立てば嬉しいです。
それでは