【体験談】名ばかり管理職にされた私が労働基準監督署に訴えた結果

名ばかり管理職とは、実質的には管理監督者ではない従業員を肩書きだけの「管理監督者」とした上で残業代を支払わないことです。これは労働基準法に違反する可能性が高く、訴えられるリスクがあります。この記事では、私が名ばかり管理職にされた経緯と、労働基準監督署に訴えた結果を体験談として紹介します。また、名ばかり管理職への対処法や相談先などの有用情報も提供します。

きっかけは転職によるキャリアアップ

私が名ばかり管理職となったきっかけとなったのは転職でした。転職活動をしていた時、当時の役職や待遇よりも条件の良い案件を探していたのですが、そのうち管理職(マネージャークラス)として条件の良い企業を選んだはずでした。しかし実際は管理職でありながら、マネジメント業務や権限はほとんどなく、実質は一般社員と同じ実務をこなしながら、日々、長時間労働を行なっていましたが、「管理職だから」という理由だけで残業代が払われることはありませんでした。

退職後に残業代請求を実行

結果的に体を壊した私は休職しても体調が戻らなかったため「休職期間満了」ということで退職をせざるを得ませんでしたが、会社側の対応に納得していなかった私は、退職後に残業代請求をすることにした。というのが経緯です。

名ばかり管理職の定義と判定チェックリスト

まず、名ばかり管理職とはどういうものなのか、その定義と判定チェックリストを説明します。労働基準法412号では、「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)」は労働時間・休憩・休日の規定が適用除外される者として定められています。つまり、管理監督者に対しては、労働基準法上、時間外労働や休日労働について残業代を支払わなくても問題がありません。ただし、残業代の代わりに、管理職には基本給とは別に管理職手当が支給されます。

名ばかり管理職チェックリスト

では、どうやって自分が本当の管理監督者なのか判断することができるでしょうか?そのためには以下のようなチェックリストを参考にすると良いでしょう。

  1. 自分で仕事内容や方法を決められる
  2. 部下や他部署へ指示や指導ができる
  3. 人事評価や昇進・降格・採用・解雇など人事権限を持っている
  4. 管理職手当や役付き手当など特別な手当が支給されている
  5. 会議や交渉など重要な場面で発言力や決裁権限を持っている

これらの項目の多くまたはすべてに当てはまれば本物の管理監督者ですが、そうでなければ名ばかり管理職である可能性が高いです。大まかな括りでは下記の図が参考になるでしょう。

組織図で見る管理監督者と従業員

立場によって異なる労働基準監督署の利用

結論としては名ばかり管理職が疑われる場合は、直接弁護士に訴えた方が早いということです。

役職によって最初に訴える場所を変えた方スムーズに手続きが進みますので、下記にまとめました。

役職別の相談先一覧

  • 部長クラス|弁護士
  • 課長クラス|弁護士
  • 係長クラス|弁護士 or 労働基準監督署
  • 役職なし|労働基準監督署
  • 一般社員|労働基準監督署
  • 派遣社員|労働基準監督署

部長クラス・課長クラスに関しては弁護士一択だと思います。記事でも記載しますが、労働基準監督署は強制力を持たないため、企業との交渉力は弱いです。そのため、多くの証明が必要になる名ばかり管理職は苦戦するでしょう。

係長クラス以下の方は労働基準監督署で良いと思います。すでに残業代が出ている方も多いでしょうし、対象となるのはサービス残業に注力することができるからです。

企業によって係長クラスを管理職としている場合もあるので、その場合は弁護士が良いでしょう。

それでは詳しく内容を見ていきましょう。

労働基準監督署の場所を調べよう

まず、管轄の労働基準監督署(以下労基)は、お勤めの会社がある各都道府県のうちそれぞれが管轄している市区町村の労基へ訴えることになります。

なお、労基は厚生労働省の管轄なので、所属している会社の所在地がどこなのかを確認しておきましょう。

厚生労働省

最初は直接足を運び、担当の方に事情を説明し、集めた証拠品を確認してもらうと言う流れとなります。

必要な証拠品は下記の通りです。

  • 出退勤記録(データ、手書きのメモ問わず、1分単位)
  • 休憩時間の勤務記録(データ、手書きのメモ問わず、1分単位)
  • 給与明細
  • 雇用契約書 
  • 社員賃金規定
  • 社員就業規則
  • 上司からの指示記録(メール、メモ・いずれもいつ、どこで、だれから、どんな、指示を受けたかを記録したもの)

証拠品集めの詳細については過去記事にも載せていますので参照してください。

残業代請求の決め手とはなにか?(証拠編)

直接行くのは1回で、後は労基の担当の方との電話でやりとりとなります。

匿名か実名か

労基へ訴えた後、労基は事実確認のために企業へ行き、調査を行います。

その際、匿名で訴えるか、名前を出して訴えるかを選択できるので、状況に応じて決めておくのが良いでしょう。私は退職後でしたので、名前を出して訴えました。
また、匿名よりも、実名を出した方が調査先が明確になるため、調査がしやすいとのことでした。

そのため、名前を出せる方は実名で依頼する方が良いでしょう。

労基署が会社に対し調査に入る条件

労基署の調査が入るポイント

労基署が企業に抜き打ち調査をする時には条件があります。

それは、同じ会社の一定人数の社員が労基署へ訴えを起こした場合です。

労基署では特定の会社ごとにポイントのようなものを貯めており、一定数を超えた場合にその会社には問題があると判断し、調査に行きます。

ただ、この調査に対しては会社も対策を考えています。

よくあるのが、「時間稼ぎ」です。

調査の内容は、「企業に調査対象の資料を要求する」➡︎「企業が資料を提出する」という流れになりますが、ここで企業側は時間稼ぎを行います。

なかなか資料を出さなかったり、安全な資料を小出しにしたりして「調査の時間切れ」を狙います。

調査には「時間制限」があるため、時間いっぱい使い、安全な資料だけを提出します。

気になる調査期間は?

では実際に労基へ依頼した際、調査の結果はどの程度かかるのでしょうか?

労基への調査依頼から
調査結果報告までの期間は
1ヶ月です。

この期間を把握しておくことは重要です。

退職している方は生活資金の問題もありますし、労基からの指導で解決しなかった場合の弁護士への依頼への準備など、時間管理の面でも重要な要素となります。

ちなみに、私の場合は労基への依頼をしましたが、指導へは至りませんでした。

私の状況としては以下の通りでした。

  • 役割・権限|経営会議に出席しており、経営情報を扱う資料を作成している。
  • 出退勤の自由|早退は1回あり、給与は減額されている。
  • 報酬|上位5名に入っており、一般社員に比べ高額である。

労働基準監督署の調査結果に対する回答は以下の通りとなりました。

  • 出退勤の自由について|給与は減額されているものの、罰則としての性質とまでは言えない。
  • 報酬|一般社員に比べて高額である。

結局、調査結果としては指導には至らないとの結論となりました。

労基署の回答内容は?

最終的な労基の回答は下記のとおりでした。

労働基準監督署

調査指導任意

強制力ない

 

そのため、管理監督者性の否定(名ばかり管理職ではないこと)の証明は、明確な根拠がないと行政指導までは行うことができない。

※ただし、グレー部分は多いため、弁護士なら対応の可能性ありとの回答。

つまり、名ばかり管理職に関しては、労基に最初に相談するよりも、直接弁護士に依頼した方が良いというのが、実際に経験した上での感想でした。

ただ一つ、弁護士にも言われたのですが、上司からの指示メールやメモがあった場合は状況が違ったかもしれません。

上司からの指示があるということは、部門長ではないことの証明になるので1つの証拠にはなると思います。

労基にしても弁護士にしても、証拠は多い方が良いので準備はしておきましょう。

証拠を集めろ!上司からの指示メール!(名ばかり管理職編)

弁護士とつながるためには

ちなみに、弁護士の依頼なんてどうすればいいの?

という方がほとんどだと思いますので、相談先を2つ紹介させていただきます。

法テラス|法律相談を総合的に行うことができます。また、資産が少ない方は少額の弁護士報酬で依頼することができます。

 

日本労働弁護団|労使関係の問題でしたらこちらを利用するのが良いでしょう。私もここから担当弁護士の方を見つけました。

各リンクを以下に貼っておきますので、一度サイトを見てみるのも良いと思います。

法テラス

日本労働弁護団

まとめ

結論としては、名ばかり管理職での残業代請求は最初から弁護士に依頼するのが良いと思います。

労基の権限は思ったより弱いという印象でした。役職なしの方の残業代請求なら問題ないかもしれませんが、少なくとも名ばかり管理職での労基への訴えは結果的に遠回りになるかもしれません。

もう一度、手続きについておさらいしておきましょう。

時系列を整理しよう

STEP1
労基署の場所を調べる
厚生労働省のホームページから管轄の労働基準監督署の場所を調べる。
STEP2
証拠を持って労基へ
証拠書類を持って労基署に行き、残業代請求の旨を伝える。
STEP3
担当者との聞き取り
労基署の担当者の方と面談とアンケート記入があるので、「匿名」「実名」を選択する。
STEP4
労基署による実態調査
労基署が会社に対して資料をもとに実態調査を行う。
STEP5
調査報告
労基署へ依頼してから約1ヶ月後、調査結果の連絡がくる。そこで会社の支払い意思があるかどうかが分かる。支払いの意思があるならここで手続き終了。支払いの意思がない場合はSTEP6へ。
STEP6
弁護士に依頼
労基署の指導でも会社に支払い意思がない場合は、日本労働弁護団に連絡し、担当弁護士を見つけ、依頼する。

労基署を利用するメリット

ただ一つ、労基の指摘で残業代を払ってもらえた場合は費用がかからないというメリットがあります。調査依頼にもお金はかからないので、時間的に余裕があり、金銭面での負担を減らしたい方は試してみても良いかもしれません。

逆に、弁護士費用はかかるものの、早く解決したい方は、上記リンクの「日本労働弁護団」に連絡して弁護士を紹介してもらうのがオススメです。

ちなみに、弁護士費用は回収額の2割程度を考えておけば良いと思います。

知りたい!弁護士費用っていくらかかるの?

また、金銭的に困っている方のために、着手金その他諸々の費用は後払いにしてくれることもありますので、相談内容に含めておくことをオススメします。

弁護士はみなさんが思っているよりも身近な存在です。

もっと簡単に労基署を頼っていい

私も最初はかなり抵抗感がありましたが、「ネットの回線工事」くらい簡単です(流石に言い過ぎですね)

最初のつながりさえ持ってしまえば、あとは相談内容を明確にして、手続きに入るだけです。

なにも行動しなければ、回収額はゼロですので、まずは行動することをオススメします。

全体の残業代請求のフローを確認したい方は次の記事をどうぞ。

実際に行った残業代請求の体験を公開します!
(フロー編)

以上、今回の記事が参考になれば幸いです。

それでは

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