今回は、労災が認定され治療に専念している場合、1年6ヶ月を経過した場合はどうなるのかを解説していきたいと思います。
傷病手当金と比較してみていきましょう。
目次
労災と傷病手当金の違い
会社から「傷病手当金」を勧められてそのままの方もいるかもしれませんし、労災申請中の生活費を「傷病手当金」で生活費をまかなう方も多いかもしれません。
確認すると毎月支払っている社会保険料のうち保証対象は下記のとおりです。
- 健康保険|傷病手当金
|業務外のケガ・疾病に対する保証 - 労災保険|労災補償
|業務によるケガ・疾病に対する保証
毎月支払っている保険料(給与から引かれています)なのですから、会社の抵抗にあっても労災申請をしましょう。そもそも労災申請に反対するような会社からは転職した方がいいと思いますが…。
労災申請は審査に時間がかかるため(6ヶ月程度)、その間傷病手当金でまかなうことは可能です。
労災認定されなければそのまま傷病手当金を受給すればいいので、申請することにリスクはありません。
図のように、傷病手当金を受給するためには、疾病により3日連続で会社を休んだ後、4日目から受給することができます。労災と違い、申請すればすぐに受給でき、最大1年6ヶ月まで、標準報酬月額の3分の2を受給することができます。
標準報酬月額は4月〜6月の平均給与をもとに健康保険組合のテーブルに合わせて計算されます。
詳細なテーブルについては「全国健康保険協会」のHPリンクをご覧ください。
※ただし、加入期間が1年以内。つまり、入社して1年以内に受給を開始した場合、退職時に支給が打ち切られるので注意が必要です!
参考動画|弁護士西川暢春の咲くや企業法務TV
労災の場合はこうなる
傷病手当金と同じく、失病より会社を休んだ3日間は待機期間となり4日目から1年6ヶ月までは、疾病の前の給与締め日を基準に過去3ヶ月間の平均賃金の80%が支給されます。
ただ、労災の場合は審査から認定までの期間は半年ほど必要になるため、先に傷病手当金を受給することがほとんどだと思います。
また、労災申請をする場合には時効にも気をつけましょう。うつ病(精神疾患)による場合は2年です。
1年6ヶ月を経過してもまだ回復しない場合は、平均賃金を基準に労災保険が設定する給付基礎日額に切り替わり支給が継続されます。
厚生労働省のサイトに表がありますのでリンクご覧ください。
ポイントは年齢別に最高額と最低額が決まっている点です。この範囲に収まらなかった場合は最高もしくは最低額に自動的に変更されます。
つまり、傷病手当金は最大で1年6ヶ月まで、労災の場合は1年6ヶ月を過ぎても体調が良くなるまで支給されます。
また、傷病手当金は薬代が出ないのに対し、労災の場合は薬代や通院にかかる交通費も出るため、保証の手厚さは段違いです。
傷病手当金| 労災補償
補償額|給与の割合
3分の2 ▶︎ 80 %
医療費
3割負担▶︎ なし
期限
1年6ヶ月▶︎ 無期限
※厳密には単純な給与ではありませんが
ここでは簡易的に給与とします。
※傷病手当金の期限は通算で1年6ヶ月です。
少しでも仕事が原因で体調を崩した可能性が疑われる場合は、労災申請を行いましょう。
毎月高い社会保険料を支払っているのはこういったときのためのものなのですから、周囲に気を使ったりする必要はありません。
さて、本題に戻りますと、そんな労災も原則として支給期間は1年6ヶ月で変わりありません。平均賃金の80%が支給される期間はここまでとなります。その後は厚生労働省が設定している「基礎給付日額」を基準とした金額が支給されます。
そして、労働基準監督署から現在の治療状況、体調についてのヒアリングシートが届きます。
医師の証明が必要ですので、担当の病院・クリニックの先生に記載してもらいましょう。
また、同時に自覚症状についての記載項目があるのでそちらを合わせて労働基準監督署に送付すれば、継続して休業補償を受けることができます。
参考動画|弁護士西川暢春の咲くや企業法務TV
労災認定されているなら休業損害で訴えることができる!
また、労災認定を受けていて、症状が回復したという方は、会社に対して休業損害の請求を行いましょう。
これは、会社の過失により働けなくなった期間の平均賃金の40%。つまり休業補償で保証されなかった残りの金額を会社に請求するというものです。
こちらは個人で請求するのは難しいので、弁護士に依頼しましょう。
労災認定されていて会社に対して具体的に請求できる内容は以下です。
- 労災の待機期間である3日間の休業補償金額(平均賃金の60%)
- 休業損害(平均賃金の40%)
- 疾患により労務不能になった期間に対する慰謝料
疾患により労務不能になった期間に対する慰謝料に関しては、弁護士が参考にしている交通事故による通院慰謝料算定表を基に算出するのが一般的です(弁護士談)。
参考|あかし総合法律事務所HP
精神疾患の場合は治療が長期化する傾向もあるので、慰謝料も高額になります。労災認定された場合は忘れずに会社に請求するようにしましょう。
参考動画|弁護士西川暢春の咲くや企業法務TV
まとめ
以上のように、傷病手当金は標準報酬月額の3分の2を最大1年6ヶ月まで支給してくれますが、治療費・薬代は3割負担分を支払わないといけません。
それに対して、労災の場合は、平均賃金の80%が基本としてもらえるだけでなく、治療期間が1年6ヶ月を過ぎた場合も基準は違いますが休業補償を支給してもらえます。
また、通院・入院費用や薬代はかかりません。
もっとも、それだけに労災認定までの審査は厳しいものですが(認定率はおおよそ3割程度)、その権利を得るための社会保険料を会社は支払っているので、申請することをためらう必要はありません。当然の権利なのですから。
そして、働けない期間で、かつ補償されていない分の給与40%を休業損害として請求できる(合計で平均賃金の120%)ので、労災がいかに手厚い保証であるかがわかります(さらに治療期間に応じた慰謝料請求もできます)。
労災は給与の80%が支給されますが、内訳は給与の60%と特別支給金の20%なので、正確には給与の60%分だけをもらっているという考え方になります。
労災の補償金額
労災補償
60 %
特別支給金
20 %
通常支給額合計
80 %
休業損害
40 %
トータル支給額
120 %
※パーセンテージは過去3ヶ月平均の
給与に対するものです。
※休業損害の請求は弁護士に依頼するのが
一般的です。
よく労災申請をすることに引け目を感じる方を見かけますが気にする必要はありません。
会社には労災保険を支払う義務があり、労働者には労災申請する権利がありますし、会社はあなたの人生全てを面倒見てくれません。
何より業務上の過失なのですから、会社に責任があります。優先すべきは自分自身の健康と金銭面です。
業務上の過失により生じた精神的負担による時間は帰ってきませんし、あなたの思い描いていたキャリアが崩れてしまったことは、事実として残ります。
それを補償できるのは親切な言葉や同情心ではなく金銭しかありません。金銭的な不安がなくなることは、治療に専念できることを意味します。
その金銭があなたの次の一歩を支えてくれるのですから、周りの言葉に惑わされずに、労災の申請を行うことを強くお勧めします。
以上、みなさんの参考になれば幸いです。
それでは