「ウチの会社は今月末をもって倒産します」
こんな言葉を聞く時が来たらどうしますか?
今の時代どうなるかわかりません。パニックになる前にどうするべきかを考えておくことは次へのステップに進むための重要な判断力となるでしょう。
実際タイムリミットがある手続きですのでいち早く行動することが未来の自分を助けるための役に立ちます。
まず気になるのは「これまでの給料」と、もしあれば「未払い残業代」の回収です。
これらは労働者が会社に対してもっている「債権」ですので、回収手続きが必要になります。
今回は万が一の事態を想定しておく「準備」として、債権回収についての説明をします。
目次
ひとごとじゃない倒産による賃金未払い
会社が倒産した場合は給与の未払いが発生する可能性が高いです。
それだけでなく、数ヶ月にわたり給料未払いのケースもあるかもしれません。
その場合は会社に対して請求しても回収できない「泣き寝入り」の状態になる人も少なくないと思います。
未払賃金立替払制度
この状況を少しでも解消するためにあるのが「未払賃金立替払制度」です。
この制度を利用することで、年齢ごとに最大88万円〜296万円を回収することができます。
倒産には2種類ある!「法律上の倒産」と「事実上の倒産」
企業の倒産といっても大きく分けて2通りあります。
それが「法律上の倒産」と「事実上の倒産」です。
いずれの場合でも、倒産した日が給与の立替払いの基準日となりますので、自分の場合はどちらに該当するかをチェックしておきましょう。
裁判所の管理のもと、整理が行われます。
①|破産
破産手続き開始の決定(破産法)
倒産会社の財産全てを換価して、債権者の優先順位と債権額に応じて配当を行う強制執行手続き。
債務者である倒産会社自らが申し立てる「自己破産」、倒産会社の役員が会社の破産を申し立てる「準自己破産」、債権者(第三者)が破産を申し立てる「第三者破産」の3つに分けることができる。
破産手続き開始決定が出されると、裁判所は破産管財人(通常は弁護士)を選任し、以降の破産会社の管理は管財人が行う。管財人は、倒産会社の財産を管理し資産の売却や売掛金の回収によって換価し、債権者への配当の原資とする。
②|特別精算
特別清算手続開始の命令(会社法)
申請の対象は株式会社などで、会社が解散登記されていることが前提となる。
債務超過などで清算の遂行に著しく支障をきたす場合などに、裁判所の下で清算業務を進める形となる。
解散登記により就任した清算人が整理の手続きを行い、債務弁済の金額・時期・方法などを定める協定案を作成する。
破産手続きと大きく異なり、債権調査・確定の手続きがなく、財産換価も一定の金額までは清算人が自由にでき、小口債権者には裁判所の許可を得た上で協定外で弁済することも可能。
③|民事再生
再生手続の開始の決定(民事再生法)
和議法に代わり2000年4月から施行され、株式会社・有限会社のほか医療法人・学校法人などを含む全ての法人及び個人に適用される。経営破綻が深刻化する以前の早期再建を目的としている。
申し立て人は通常債務者だが、債権者による申し立ても可能。経営権は原則として旧経営陣に残るが、利害関係人の申請または裁判所の職権により監督命令(経営者の後見的立場として監督委員が選任される)・管理命令(経営者に代わって管財人が選任され経営にあたる)が出される場合もある。
再生計画の認可は、出席債権者数の過半数で届出債権額の1/2以上の同意が必要となっている。また届出債権の3/5以上の同意があれば、債権の調査確定手続きを省略できる(簡易再生)。届出債権者全員の同意があれば、ただちに計画の認可を受けることができる(同意再生)。
④|会社更生
更生手続開始の決定(会社更生法)
申請の対象は株式会社のみで、会社が消滅すると社会的に大きな影響のある上場企業や大企業の倒産に適用されるケースが大半である。旧経営陣は原則としてその後の経営に関与できなくなるが、経営責任のない場合に限り、経営に関与することができる。
裁判所は「更生手続きの開始決定」と同時に管財人を選任し、事業を継続しながら管財人の下で「更生計画」が作成される。更生手続きをうまく進めるためには事業管財人(事実上のスポンサー)の選任が鍵を握っており、その後の更生計画遂行の大きなポイントとなる。
手続きが厳正・厳格に行われるため、手続き終結までに長期間を要していたが、2003年4月、民事再生法を踏まえ、手続きの迅速化・合理化を図るため、改正会社更生法が施行された。
事実上の倒産の定義は次のとおりになります。
中小企業について、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない場合
厚生労働省HP|「未払賃金立替払制度の概要と実績」より引用
この場合は、労働基準監督署長の認定が必要ですので、労働基準監督署に認定の申請を行って下さい。
①|事業活動の停止
事業場が閉鎖され、労働者全員が解雇されるなどにより、その事業本来の事業活動が停止した場合をいいます。
事業の廃止のために必要な清算活動を行っているに過ぎない場合は該当しますが、事業規模を縮小してもその事業本来の事業活動を継続している場合は該当しません。
②|再開する見込みがない
一般的には、事業主が事業の再開の意図を放棄し、又は清算活動に入るなどにより再開する見込みがなくなった場合をいいます。
③|賃金支払能力がない
一般的には、事業主に賃金の支払に充てられる資産がなく、かつ、資金の借入れ等を行っても賃金支払の見込みがない場合をいいます。負債額が資産額を上回る、いわゆる債務超過であることのみでは該当しません。
事実上の倒産が認められるのは「中小企業」だけですが、中小企業の定義を確認してみましょう。
業種 | 資本金額 | 従業員数 |
---|---|---|
一般産業 (卸売、サービス、小売業を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
上記の条件を満たす企業だけが、「事実上の倒産」の認定を受けることができます。
自分の企業がどこに該当するのかをよく確認しておきましょう。
法律上の倒産にしても、事実上の倒産にしても、実際の書類手続きは労働基準監督署を通る必要があるので、疑問点がある場合には労働基準監督署に相談してみましょう。
労働者側にも請求するための条件がある
会社側の倒産がわかったら、その日が基準日となります。
労働者が、倒産について裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること
厚生労働省HP|「未払賃金立替払制度の概要と実績」より引用
つまり、倒産が法律上の倒産か、事実上の倒産かで証明をもらう場所が変わります
倒産の区分 | 証明者 |
---|---|
破産 | 破産管財人 |
民事再生 | 管財人 |
特別清算 | 清算人 |
会社更生 | 再生債務者等 |
事実上の倒産 | 労働基準監督署 |
また、倒産の日付が決まったら、その日を基準日として半年前〜1年半経過するまでの間(2年)に退職した方が対象です。
倒産日を2021年2月10日とした場合、その半年前の2020年8月10日から2年間経過した2021年8月9日までに退職した人が「立替払い」の対象者です。
この期間以外で退職した人は、残念ながら支給対象者とはなりません。
未払賃金がある方は会社が倒産した日付と退職した日付をよく確認しておきましょう。
注意しなければならないのは、退職後6か月以内に、裁判所への破産手続開始等の申立て又は労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は、立替払の対象にならないということです。
会社が倒産して賃金の未払が発生した場合は、できるだけ早く労働基準監督署に行き、相談してください。
会社が倒産した時の賃金回収方法
会社が倒産した場合には全額ではないものの、一定額を回収することができます。
0円と少額でも回収できるのとできないでは大きく違いますので、万が一に備えて覚えておきましょう。
「未払賃金立替払制度」は、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払する制度です。
厚生労働省HP|「未払賃金立替払制度の概要と実績」より引用
もし企業が倒産してしまい、賃金の回収ができなくなってしまった場合に、国が賃金の一部を代わりに立替えて支払ってくれる制度のことです。
冒頭のように、法的手続きを踏んでから倒産となる場合だけでなく、「夜逃げ」のような形で請求先がいなくなってしまうことがありますが、どちらの場合でも利用可能です。
立替払いで回収できるものは以下の通りです。
毎月もらっている基本給
+
未払い残業代
+
退職金
(退職金制度あり)
立替払をする額は、未払賃金の額の8割です。ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限が設けられています。
退職日の年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払いの上限額 (限度額の8割) |
---|---|---|
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
「未払賃金立替払制度」を利用するための窓口は「労働基準監督署」です。
まずは管轄の労働基準監督署に行き、認定の申請をする必要があります。
法律上か事実上かに関わらず、「未払賃金立替制度」の申請用紙は労働基準監督署に備え付けてあるため、不明な点があれば労働基準監督署の担当者に相談してみましょう。
労働者健康安全機構の役割
未払賃金の立替払制度は、労働者とその家族の生活の安定を図る国のセーフティーネットとして、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、その未払賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度です。
独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」という。)が本制度を実施し、立替払を行った時は、機構はその立替払金に相当する額について労働者の賃金請求権を代位取得し、事業主等に求償しています。
独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)より引用
労働者健康安全機構のHPはこちら
時系列を整理しよう
倒産から立替払いの手続きを整理すると次の通りになります。
タイムライン
会社が倒産し、給料が支払われていない状態となる。
「法律上の倒産」か「事実上の倒産」かに関わらず、労働基準監督署にいく必要があります。
法律上の倒産の場合は「倒産の事実を証明する」用紙をもらい、破産管財人などに証明書を作成してもらいます。
事実上の倒産の場合は「労働基準監督署長」認定が必要なため、認定の申請が必要です。
未払賃金の立替は「労働者健康安全機構(JOHAS)」に請求を行います。立て替えた金額は「労働者健康安全機構」が立事業主に代わりに請求する手続きをとっています。
詳細な手続きについては下記リンクをご覧ください。
請求額が請求書の指定口座に振り込まれ、処理は完了です。
受給資格があるのは、退職後6ヶ月以内に処理をした人ですので、退職後は速やかに手続きを行うようにしましょう。
国の未払賃金立替実績
未払賃金がある場合には国が一部を立替えて支払いをしてくれます。
未払賃金の立替実績
倒産件数と未払賃金の立替実績は当然ながら強い相関があります。
企業倒産件数は2002年の18,587件から、2020年の7,163件と大幅に減少していますが、それと同じく「未払賃金の立替企業数」も2002年の4,734件から2020年の1,791件に減少しています。
また、1人あたりの未払賃金の立替払い金額は、2002年の654,216円から2020年には355,124円と減少しています。
もちろん人によって請求できる金額は違いますが、35万円は約2ヶ月分の給料に相当しますので、忘れずに請求するようにしましょう。
まとめ
人によって全額の回収は難しいかもしれませんが、知っておくだけでも当面の生活資金を確保すると言う意味で重要です。
特に倒産の場合は必ず退職というプロセスを踏みますので、失業保険だけでなく、未払いの給料の補填をしてもらえる制度があることを覚えておけば自分の身を守るために役に立ちます。
また、倒産は人ごとではなく、どんな企業にも起こりうることです。いつでも退職や転職してもいいように転職エージェントの利用をしておくなど、万が一に備えておきましょう。
以上、今回の記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。
それでは